曼珠沙華

「好き」は軽い。吹けば簡単に飛んでいってしまう。どこまでも遠く高く。だから「好き」をかさねて重くしないといけない。簡単に吹き飛ばされないように。ちゃんと自分の中に隠せるように。でも、かさね方が下手だと歪んだ「好き」が生まれてしまう。歪んだ「好き」は脆く弱い。簡単に崩れてしまう。「好き」の破片はガラスの破片のように鋭利で細かくて美しい。だから私は何度も歪めて壊してしまう。指が切れても血を流しても美しいものが欲しいから。

 

7月21日のなんば式写メ会で好きなアイドルと2枚写真を撮れる事になった。1枚目は好きなアイドルが好きなアニメのキャラクターのポーズで写真を撮った。2枚目どうします?と好きなアイドルに聞いてみた。前日のブログでファンの皆さんと撮りたいポーズがあるって言ってたし、まぁそれだろうなと思っていた。「見つめていいですか?」と言われた。私の小汚い顔なんて見たいわけがないし「見つめていいですか?」って言ったらコイツ喜ぶだろうなっていう思惑の上での発言だと思う。それでも、どうしようもなく嬉しくて恥ずかしかった。言葉の真意に気づいて罠だと思ってもなんの躊躇いもなく引っかかってしまう。蜘蛛の巣にかかった蝶のように何も出来ない。あとは死ぬだけ。死ぬ前に夢なんて見せないで欲しい。同じタイミングで照れ笑いするのもやめて欲しい。私の目を見て本当に大好きなんて言うのもやめて欲しい。全部全部嘘で本当じゃないなんてわかってる。仕草も言葉も全部レプリカなんてわかってる。それでも私は「好き」を重ねずにはいられない。一心不乱に何も考えず、何も考えることが出来ずに重ねてしまうから歪む。

 

翌日は好きなアイドルの生誕祭だった。

異常なまでに蒸し暑く、身体の中からじんわりと汗ばむ感じがここがどこかを否応なく教えてくれた。突然、激しい大粒の雨が難波の街に降り注いだ。雨の難波はいつも以上に胡散臭くてどこかアンダーグラウンドな感じがしてより魅力的。この街のアーケードの下にいると自分がイリーガルな存在になったような気になる。自分自身が歪む。でも、その奇妙な感覚がやみつきになる。不思議な街。

特定の推しメンがいる公演はその娘を反射的におっかけて見てしまうため全体としての感想が薄くなる。16人もステージの上にいるのに自分の推しメンがどこにいるのは瞬時にわかる。人間の感覚器官は曖昧で一等星よりも二等星や三等星の方が輝いて見えることがある。その時、二等星は一等星を越えた二等星になる。好きなアイドルが何等星だかわからないけど間違いなく一等星を越えていた。夜空に輝く数多の星から大事なひとつを今なら指させる。

好きなアイドルの全てが恋だった。揺れる髪も突き上げる拳も右を向くと見える左の横顔も左を向くと見える右の横顔も。全てが恋、だった。彼女が動くたびに「好き」が重なった。

「僕以外の誰か」のキレのあるダンスも「転がる石になれ」の強く突き上げる拳も「オネストマン」のこの世の光源でいちばん光ってるような笑顔も「君のc/w」の可愛い衣装に負けないくらいの可愛い表情も「嘘の天秤」のやるせないような表情も「従順なslave」の怪しげに笑う瞳も「理不尽ボール」の軽やかなステップも「場当たりGo!」の無邪気にはしゃぐ姿も「夢に色がない理由」の想いを歌声に乗せて画面の向こうまでに届けようとしているのも「スクラップ&ビルド」の殻を破ろうともがく動きも「絶滅黒髪少女」のどこかセクシーに感じさせる雰囲気も「床の間正座娘」のダイナミックなダンスも「夢は逃げない」の魂のこもった一挙手一投足も「三日月の背中」のキラキラと輝いて前向きになれる女の子を体現するような踊り、歌唱、表情、その他全てが恋だった。あなたが息をするたびに私は「好き」を重ねた。こんなに素敵な人にならないで欲しい。こっちの「好き」が追いつかない。でも、そんな魅力で溢れてこれからも魅力が増え続けるであろうあなたのことが本当に好きなんだ。

 

「自分の愛が愛を生まないようなものだったら、また、愛する者としての生の表出によっても、愛される人間になれなかったとしたら、その愛は無力であり不幸である」

 

無力でも不幸でも愛したくなったんだから、かっぱえびせんじゃないけど、もう、やめられないし止められないんだよ。あとは堕ちるだけ。ゆっくりとしたスピードで私は堕ちる。

 

「人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。」

 

私のその流儀にしたがって堕ちる。何度も何度も歪な「好き」を重ねて崩れた破片で指を切り血まみれになると思う。まともじゃないことなんて百も承知してる。それでも私の血は彼岸花のように気高く品のある真っ赤だと思う。あなたの好きな彼岸花には毒があるの。死にはしないけど麻痺する程度の毒が。死ぬほど苦しいのに決して死ねない毒が。あなたの顔も声も姿も表情もみんな私を痺れさせる。それでも「好き」を重ねずにはいられない私はどうすれば良いのかわからない。赤い彼岸花花言葉に「あきらめ」と「思うはあなた一人」の2つがあり。この場合はどちらが正解?

 

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