マニキュア

私はInstagramのアカウントを2つ持っている。ひとつはこの人格。つまり、mayo_9_8としてのアカウント。基本的には参加したライブやイベントのことを投稿している。もうひとつは、オタクではない自分のアカウント。一般的な言葉を使うと“リア垢”になる。このアカウントでは、購入したものや食事(主にカレー)や見た映画など自分の半径1m以内のモノを投稿している。その中でヨンブンノイチを占めるのが読んだ本だ。私は結構何となくで読み進めてしまうことが多く読了したのに記憶からすっぽりと抜け落ちてしまうことが多々ある。この簡易記憶喪失を無くすためにInstagramを備忘録的に使用している。

 ある日、Twitterを眺めていたら好きな本についてツイートしているアカウントが流れてきた。ツイートの内容は記憶にないが添付されていた画像についてはとてもよく覚えている。白い壁の前で左の人差し指から小指までの四本を使って本の背を支え残りの親指でつまむように持っていた。その親指の爪が白くて綺麗な手に良く似合う黒に塗っていて、水族館でビジュアルも名前を知らなかった未知の深海魚を見た時のようにゾワゾワと心が惹かれた。その投稿を見て自分もやってみようと読了した本(確か川上未映子の「発光地帯」だった気がする)を左の人差し指から小指までの四本を使って本の背を支え残りの親指でつまむように持って写真を撮ってみた。全然違った。日に焼けた茶色で毛穴もある自分の手では想像通りに綺麗には撮れなかった。これで、自分の手が綺麗ではないことに気づいてポケットの中に隠すようになった。ひとつ、また生きるのが辛くなった。

私の人生はこんなんばっかなとため息をついた。私は極度の猿腕で他人に見せるとドン引きされてしまう。他人をドン引きさせてしまうほど醜い腕が嫌いで夏場でも長袖を着てしまう。臭いものには蓋をして、嫌いなものは隠して生きてきた。

 

この出来事から8ヶ月経ったある日、暇だったので妹に爪を塗ってもらった。上記の出来事があったにしろ、本当に理由はない。衝動みたいなもんだと思っている。協議の結果、緑色ならカッコイイもカワイイも兼ね備えてるのでは!?となり、緑で塗ってもらった。妙に甘い匂いで気分が悪くなりかけたけど、興奮の方が遥かに勝っていたので大丈夫だった。完成した緑の爪が嬉しくてみんな(これを読んでるあなたの事です)に見せびらかしたくて写真を撮ってる時に女性が男性よりも自撮りをする理由がわかった。女性はメイクをする機会が多い。メイクをするとすっぴんでは足りないと思うところや気になるところを補正することができ、その補正分だけ自分のことを愛せるんだなと思った。すくなくとも、自分の緑色の爪は愛することができた。  

 

爪を塗って世界の楽しみ方が少しだけわかった。気にしいで自意識過剰で自信が無い私はひと手間を加えて、そのひと手間分だけ自分のことを愛するしかない。何もしない等身大の自分なんて愛せないし誰からも愛されたことがないから。

 

ポケットから手を出すと北風が指先の感覚だけを盗んで、逃げた。それがちょっとだけ、嬉しかった。

 

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