クリスマスと友達のはなし。

25日の夜はバイトだった。営業が終わると流れるように締め作業がはじまる。バーチャルゴルフのパソコンとプロジェクターを消して更衣室の確認。拾得物の有無の打ち込みと各ドアの施錠。バイトの仕事をこれくらいになる。その間、社員は売り上げの確認だったり、日報を書いたりする。それら全ての業務が終わり社員に報告すると、クリスマスツリーの撤収を命じられた。カウンターの横に狛犬のごとくずっしりと居座っていた偽物のクリスマスツリー。まず、巻き付けてあった電飾を剥がした。一緒に作業してたバイトさんが「3mくらいかな」と呟いた。私は電飾を八の字巻きにしながら「ホホジロザメのオスと同じくらいですね」なんて呟いたけど相手の耳には残らなかったみたいだった。次にオーナメントとくまのぬいぐるみを外して箱に入れて、最後にクリスマスツリーを事務所に運んだ。泣きたくなる気持ちを抑えながら。街全体の浮かれた気分に呑まれてソワソワしながらお寿司を食べたりケーキを食べたりしたクリスマス。明日の朝、枕元に何があるのか想像するとワクワクして眠れなくなってしまったクリスマス。そんなゲストとして過ごすクリスマスが終わってしまったんだなとクリスマスツリーを撤収しながら痛いくらいに感じてしまった。自分にはもうクリスマスを楽しむ権利もムードに浮かれる権利も何も無くて、誰かを楽しませたり浮かれさせたりするホスト側なんだ。この事実が社会から与えられた責任のようで重くて見えないランドセルを背負った気分になった。

次の日もバイトだった。基本的に暇なのでカウンターの中でお喋りしたり何か作業をして時計の針が回るのを待つ。こんな醜くて気色の悪い私に興味を持って話しかけてくる人間が怖いのでなるべく誰からも話しかけられないように空虚を眺めていると、そんなことお構い無しにこちらの作った壁をすり抜けてくる同い歳の女の子に話しかけられた。昨日の夜に歳上の大学生とヨコハマデートをしたらしい。微塵も興味がなかったが、悟られないように「へぇー!」と「そうなんだ」の二本刀で乗り切った。話の途中でその女の子がクリスマスプレゼントで男の子はなにもらって嬉しいのか全くわからない。「クリスマスプレゼント、何が嬉しい?」と質問された。『クリスマスプレゼントにもらって嬉しいもの』こんな簡単な問の答えが全く浮かばなかった。こんなにわからなかったのは物理基礎以来だと思う。そもそも“クリスマス”に“異性”から“プレゼントを貰う”なんてシチュエーションが自分に起こるなんて一切想像もしてなかった。軽くパニックになってしまい「愛」と答えてややウケだった。私がクリスマスツリーを撤収しながら、もうホスト側になっちまったなぁ……なんて思い上がっている間に同世代のオンナノコはクリスマスをゲストとして大満喫していた。クリスマスを楽しめるほど人生のど真ん中を歩いていなければ、リア充爆発しろ!なんてクリスマスを楽しまないことを楽しむほどセンスが終わってもいない。クリスマスを作るほど年を老いていなければ、受動的にクリスマスを与えられるほど若くもない。自分で決めた「ひとり」なのにそれがすごく重くて冷たい。でもそれが、時には守ってくれて時には楽にしてくれるから簡単には手放せない。

 


雪も降らない平凡な冬の日に友達の推しメンが卒業発表をした。アニメとか小説なら雨や雪が降るだろうけど、この世界はそんなに優しくないみたいだ。友達にもなんて言葉をかければ良いのか、はたまた、かけない方が良いのかなんて考えてたら、彼から着信があった。ちょっとだけ迷って電話に出ると友達は笑っていた。「実感がないや」なんて言いながら。いつもと全く変わらないその声が生々しくて泣いたり発狂したりするよりも気持ちが伝わってきて嫌だった。

前に「アイドルに対して希望を持つから絶望が生まれる。だから俺は希望を持たない」と言っていた彼が、決して綺麗ではなくて少しくすんではいたけど希望を持てたアイドルと出会えたことが少し羨ましく思えた。

 


窓の外を覗いたら月が半分だけ顔を出していた。次の満月の頃、彼女の寿命はあと少し。その頃には彼も隠れた半分の気持ちを口にすることが出来るのかな。できたら良いな。